心理学演習1
意識研究の方法を再考する―
137-F-011

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
今井 久登 教授 4 D/M 通年 3

授業概要

「歯がズキズキ痛む。この痛さはどこから来るの? 歯髄から脳に送られた信号のせい? そんな説明じゃあ納得できっこない。単に有機物の塊にすぎない脳のどこの何が,この痛いという感じをつくるっていうんだ! そもそもそう悩んでいる,この自分という感覚だって何なのだろう。考えれば考えるほどややこしい。意識と脳の関係なんて解決不能だ……」 
-『意識をめぐる冒険』クリストフ・コッホ(著)土谷・小畑(訳)より
 
心理学の祖であるヴントによる取り組みに始まり,その後も研究発展の盛衰がありつつも,時代ごとに野心あふれる心理学者が我こそはと格闘してきた意識(広義には心の主観性)に対する心理学的な科学研究は,結果として,幾度もの苦渋を心理学者たちに味わわせてきた。その根底にあったのは,内観法の失敗に由来して展開した行動主義的視点からの客観的・実証的な手法が持つ方法論に,意識研究を行うに困難な原理的限界が内在していることである。ここで言う限界とは,測定したい主観性を外側(他者)から観察・測定するための手法がないという問題で,自己と他者あるいは主観と客観の問題とも絡む,解決の糸口が到底見えそうにない難題である。
 
ところが,2000年代以降の神経科学的な計測技術の劇的な向上に伴って,意識を研究するための方法にも展開が見られるようになってきた。特にこの10年ほどの間の,意識の心理学的あるいは神経科学的な研究の発展にはめざましいものがある。そして,これは目算であるが,大概10年も経過すれば,研究知見の蓄積は進み,研究手法に対してもあるていどの共通理解が得られてくるものである。
 
したがって,本年度は,昨今の意識研究における科学的方法について,最新のまとめがなされた文献を読解することを通じて,その方法論を再考することを試みたい。
 
ただし,意識研究が取り扱おうとする根源的問題(問い)について必ずしも詳しくない履修者もいるであろうことから,第1学期には,その点についてカバーするために和書を2冊読むことにより,問題意識を共有できればと思う。その上で,第2学期には,意識研究の方法についてまとめられた最新の文献を読みながら,「意識を科学的に研究するための方法」を全員で議論していく予定である。また,意識の科学的・実証的な研究方法について知ることに加えて,意識を科学の俎上に載せて研究することの可能性と限界についても議論したい。

到達目標

・意識に対する現在の科学的研究で用いられている方法について説明できる。
・意識研究それ自体の意義や,今後の方向性として意識をいかに研究すべきかについて,各自の考えを持てるようになる。

授業計画

1 ガイダンス(履修希望者による自己紹介を含む)
 
「意識をめぐる冒険」を読む
第1章 マインド・ボディ・プロブレム(意識と脳の問題)
2 第2章 宗教と合理的科学をめぐる個人的な葛藤の源について
第3章 意識と脳の問題はなぜ現代科学の世界観に問題を突きつけるのか?
3 第4章 手品師と科学者は似たものどうし
第5章 神経内科医と神経外科医から学べる四つのこと
4 第6章 若いころの自分にはバカバカしく思えた無意識についての二つの事実
第7章 自由意志,ニーベルングの指輪,そして決定論について物理学が言えること
5 第8章 いくつかの条件を満たすネットワークの基本特性としての意識
第9章 意識メーターの開発
6 第10章 科学者が立ち入るべきでないとみなされている領域にあえて踏み込む
 
「脳と意識のワークスペース」を読む
プロローグ
7 第Ⅰ部 意識を明らかにする
 1章 意識を変数として考える
8 第Ⅱ部 統一されたイメージ
 2章 ステージは容量制約をもつが膨大なアクセスを生みだす
9  3章 舞台にて:感覚・イメージ・観念
10  4章 心のスポットライト:注意,没我,現実感の構成
11 第Ⅲ部 劇場を使う
 5章 舞台裏:経験を形づくる文脈
12  6章 意志:行動の意識的コントロール
13  7章 演出家:意識の統一的文脈としての自己
14 第Ⅳ部 まとめ
 8章 何に適しているのか? 意識の機能
 9章 エピローグ:ちょっとした哲学
付録 自分の理論を作ろう:事実についての概要
15 予備日
16 「Behavioral Methods in Consciousness Research」を読む
Part 1 Introduction
1. Consciousness research methods: the empirical "hard problem"
17 2. The challenge of measuring consciousness
18 3. How can we measure awareness? An overview of current methods
19 Part 2 Experimental paradigms
4. Unmasking the pitfalls of the masking method in consciousness research
20 5. A behavioral method to manipulate metacognitive awareness independent
of stimulus awareness
21 6. Inferences about consciousness using subjective reports of confidence
22 7. Direct and indirect measures of statistical learning
23 8. Binocular rivalry and other forms of visual bistability
24 Part 3 Measures of consciousness
9. Intentional binding: a measure of agency
25 10. Measuring consciousness with confidence ratings
26 11. Using the perceptual awareness scale (PAS)
27 Part 4 Analysis and statistics
12. How Bayesian statistics are needed to determine whether mental states are unconscious
28 13. Handling the p and how real evidence goes beyond p-values
29 Part 5 Metachapter
14. Variability, convergence, and dimensions of consciousness
30 予備日

授業方法

文献の輪読を演習形式で行う。各回ごとに担当を受け持ち,担当者はレポーターとして,レジュメを作成の上,内容を報告する。レジュメにはテキストの内容だけでなく,わからない内容や用語についても調べて記載するなど,工夫を求める。レポーターの報告に基づき,全員で議論する。

準備学習

レポーターであるなしに関わらず,テキストの該当箇所を毎回事前に読んだ上で演習に臨むこと。

成績評価の方法

平常点(クラス参加、グループ作業の成果等):50%(出席状況・議論への参加具合や貢献度)
レポーターとしてのパフォーマンス:50%(担当箇所の理解度・報告のわかりやすさ・レジュメの出来)
 
上記を総合的に評価する。
欠席を前提としないので,万が一の欠席の際は,あらかじめ理由とともに必ず連絡すること。

教科書

① クリストフ・コッホ『意識をめぐる冒険』、岩波書店2014
② バーナード・バース『脳と意識のワークスペース』(現代基礎心理学選書 第4巻)、協同出版2004
③ Morten Overgaard (ed), Behavioral Methods in Consciousness Research, Oxford University Press, 2015

履修上の注意

第1回目の授業に必ず出席のこと。

その他

本授業の到達目標を達成するために3冊すべてを読み通して議論したいと考えている都合上,授業方法(スケジュール)の項に記載した計画で読み進めたいと考えているが,レポーターの報告のあり方やそこから推察される理解度によっては,報告をやり直してもらうこともある。